1.増え続ける外国人旅行客
海外からの旅行客数は毎年増加を重ねています。平成29年7月から9月の3か月間に、海外から744万人の外国人旅行客が来日して、1兆2305億円を国内で消費しました。下記のグラフはその推移を示すものです。
(出典:観光庁訪日外国人消費動向調査2017/7-9)
これを単純に4倍すると、この先1年間に約3000万人の旅行客が来日して、5兆円を国内で消費することになります。
ところで、毎年外国人旅行客が増加している要因は何かについて、考えたことはありますか?
政府が中国人向けビザの発行要件を緩和したから? 2003年に政府が始めたビジットジャパンキャンペーンが効果を上げてきたから? 円安が進行したから?いずれも間違いではありませんが、これらが本質ではありません。
2.世界中が海外旅行ブーム
下のグラフは国連世界観光機関がまとめた、過去60年間の国際観光客(日本で言うところの海外旅行客)の推移と見通しを示したものです。
2000年頃からリーマンショックの一時期を除いて、急速に増えてきていることがわかります。これは世界が国際観光旅行のブームになっていることを示しています。ブームに沸く国際観光客の一部が日本にもなだれ込んできているのが今の実態なのです。
政府の誘客施策が功を奏したとか、円安が旅行客を集めたということは本質ではなく、海外旅行ブームという大きな渦が世界中を席巻しているのです。しかし、世界の中で唯一ブームが巻き起こっていない国があります。それは日本なのです。
3.世界の中で日本が一人負け
下のグラフは日本人海外旅行者数と訪日外国人旅行者数の推移です。
1995年頃から日本人海外旅行者数は増えなくなり、2014年から訪日外国人旅行者数がそれを上回り始めました。
かつて世界中を闊歩して、良くも悪くも世界の人々から話題になった日本人旅行客は、今では話題にも上らなくなりました。
世界中の人々が海外旅行ブームに沸きあがっている原因は何なのでしょうか?そして日本人が海外旅行に行かなくなった原因は何なのでしょうか?それは意外なところに原因がありました。
4.所得が大幅に減少した日本人
最近の労働力調査によると働く日本人の83%が被雇用者、いわゆるサラリーマンです。この層が国内需要の多くを占め、景気にも大きな影響を与えています。その人たちに支払われる雇用者報酬、いわゆるサラリーが過去20年間減少している、という統計があります。下のグラフは労働生産性、民間消費デフレータ、そして一人当たり雇用者報酬を表しています。
過去20年間、日本の物価は下落しましたが、物価の下落以上に給与が大きく減少したのです。その結果、国民の多くはゆとりが無くなって、海外旅行に行けなくなったのが実態だったのです。
それでは海外ではどうなっているのでしょう。
5.海外との格差はこんなにも!
下記のグラフは、賃金と物価・生産性を、日本と世界で比較したものです。
上の棒グラフは物価と賃金を6か国で、下の折れ線グラフは生産性と賃金を、日本、ユーロ圏、米国で比較しています。
1995年以降の変化で、日本は労働生産性が約17%上昇したのに対して、雇用者報酬は約16%減少しました。これがユーロ圏では労働生産性は約18%上昇したのに対して雇用者報酬は約50%増加しました。米国に至っては、労働生産性は約33%上昇したのに対して、雇用者報酬は約82%増加しました。
6.生産性革命で日本のGDPは増えるか?
このような状況を改善するために、政府は2020年に向けてGDPを600兆円に拡大させる成長戦略を掲げています。その実現には年率3.5%のGDP成長を必要とします。そのために「生産性革命」を起こすことで、日本は先進国で類を見ない、高い経済成長を目指すとしています。
しかし17%の生産性向上に過去20年を要したことや、ユーロ圏や米国と比較して生産性は比較的違いが少ない指標であることを示す先ほどのグラフから、年率3.5%のGDP成長目標は相当高いハードルとなることが予想されます。
GDPは極めて大雑把に表現するなら下記の式で表せます。
GDP = 生産性 × 人口
生産性の向上=GDPの成長、となるわけですが、生産性が変わらないことを前提にした場合は、人口がGDPのパラメーターとなります。そこで人口とGDPの関係を調べてみました。
7.人口とGDPは完全な相関関係にある
下記のグラフは先進国の人口とGDPをプロットしたものです。縦棒が各国の人口、折れ線がGDPです。
これを見ると、人口とGDPには正の相関関係があることがわかります。この二つの相関係数は0.99となりました。つまり人口とGDPは等価となるわけです。
米国が世界一のGDPを誇るのは先進国中最大の3億人を超える人口を持つこと、日本のGDPが2位であるのは先進国中で唯一の1億人を超える人口を持つこと、ドイツがユーロ圏で最も経済力があるのはこの地方で最も多い、8千万人を超える人口を持つことがその理由だとわかります。
つまり生産性の違いによって差はあるものの、一般的にGDPは人口に比例するものであり、これを大きく変えるのは難しいことなのです。
8.外国人旅行客にはGDP押し上げ効果がある
長々と説明してきたことは、この章でお話しすることを伝えるためでした。それは、外国人旅行客が人口の代わりになり、ひいてはGDPに効果的に寄与するという事です。
下の図は旅行消費額と定住者が1年間に使う消費金額をまとめたものです。
外国人旅行客7人が日本で消費する金額は定住者1人と同じです。つまりインバウンド7人と定住人口1人は等価です。
四半期に744万人の外国人旅行客が来日したので、それを4倍すれば年間3千万人となります。3千万人のインバウンドは430万人の定住人口と等価です。そして430万人は日本の人口の3.4%に相当します。つまりGDPを3.4%押し上げる効果があるのです。
9.これからの日本をけん引するのは観光業
このように、これからの日本経済をけん引するのは、外国人旅行客を対象とした観光ビジネスが有望となります。この事業分野は未開拓の分野であり、アイデア次第では事業が大きく発展するブルーオーシャンです。逆にこれ以外の既存事業分野は、これからレッドオーシャンでの戦いとなる可能性が高いと言えます。
既に観光業でビジネスをされている皆様には、新しいアイデアでイノベーションを作り、日本を成長させる観光産業を作り出していただきたいと思います。
外国人観光客にあなたのホテル(旅館)を指名させるWEB活用術
10.外国人旅行客にあなたのホテル(旅館)を指名させるには
この小冊子のタイトルとなっている「外国人旅行客にあなたのホテル(旅館)を指名させるポイントをお話しします。
まず質問です。あなたのホテル(旅館)はどの国からの観光客をターゲットとしていますか?
集客マーケティングを行うには、国ごとに行う必要があります。アジア圏やユーロ圏のように、複数の国をまとめてマーケティングすることは、効果的ではありません。そこで外国人旅行客の出発国上位5か国を改めて眺めてください。
下記の表は2016年の外国人旅行客上位5か国の国名、訪日者数、そして出発国の人口に占める割合を表したものです。
対人口比が高い場合はリピート需要に限界が生じて、近い将来にピークアウトする可能性が考えられます。
これから集客マーケティングの対象国とするなら、対人口比が低い中国と米国が、将来のリピート客を獲得しやすくなるでしょう。
11.旅行で使うお金は距離に比例する
旅行客は遠方から来るほど多くのお金を使うと言われています。実際にどうなのか、外国人旅行客の出発国上位5か国に国内旅行者も加えて、一人当たりの旅行消費額を距離別に並べてみました。
中国を除けばやはり、旅行消費額と距離は比例関係にあることがわかります。中国は買い物需要が旺盛なので旅行消費額が大きいですが、韓国は距離が近いため旅行消費額が小さくなっています。
旅行消費額から考えると、中国と米国がマーケティング対象として好都合です。
12.リピート旅行の潜在需要が大きい米国
中国は圧倒的な訪日客数と旅行消費額から注目を集めていますが、米国はあまり注目されてきませんでした。しかし、下の図を見るとリピート需要に大きな可能性を持つ国であることがわかります。下の図は5か国から来日した外国人旅行客に対して、訪日旅行リピート意向をアンケート調査をした結果です。
米国人は日本旅行に対して、リピート意向が極めて高いことがわかりました。このような結果が得られた原因は、米国には日本旅行に適合性を持つ多くの人々がいるにも関わらず、これまでに十分な情報発信ができていなかったためと考えられます。
外国人旅行客の潜在需要が大きい国、それが米国なのです。
13.情報の偏在が大きい日米関係
ニューヨークやサンフランシスコ、そしてラスベガスやハワイの地名を聞けば、日本人ならある程度の地域のイメージを持っていると思います。しかし米国人は日本国内の地名を聞いても、まず殆どが地域のイメージを持っていないのが実情なのです。
日米間における情報の偏在ができたのは、日本の大手旅行会社は日本人を海外に連れ出すことに専念して、海外から日本に旅行客を連れてくることを行わなかったことが原因の一つと考えられます。そのため、米国人は日本についてほとんど知っていないのです。
また、アジアの国々には日本と同じように、企画旅行を行う旅行会社があるので、先方の旅行会社に依頼すれば送客してもらえますが、米国には企画旅行を行う旅行会社がほとんど無いので、送客を依頼する手段もありませんでした。
米国人は旅行情報をすべてネットから仕入れて自分で計画を立てるので、旅行会社が企画旅行で入り込む余地が少ないのです。このことは逆に言えば、ネットを正しく押さえれば、米国人を集客することができるということです。
14.何事にも合理的に考える米国人
日本人旅行客でネット利用者と言えば、大手旅行サイトから予約している人が多数を占めます。ホテルや旅館のオフィシャルサイトから予約する人は、どちらかと言えば旅慣れた一部の人です。
合理的に考えれば、大手旅行サイトの価格にはサイト運営会社の手数料が加算されるので、本家のオフィシャルサイトの価格に比べて高くなるはずです。ところが日本では必ずしもそうならないのは、古くから日本に存在する商習慣によるものなのです。
ところが何事にも合理的な米国では、オフィシャルサイトの価格が旅行サイトの価格よりも安く設定されるのは当たり前なのです。ホテルのオフィシャルサイトには「オファー」と称される各種割引施策が考案されていて、これを利用することで最も安い価格で予約をできるような仕組みが導入されているのです。
そのため、米国人旅行客は簡単に大手旅行サイトで予約することはせず、大手旅行サイトを参考にして希望のホテルが決まったら、次はそのホテルのオフィシャルサイトを訪問して、そこで提示されているオファー料金を比較するのです。そしてオファー料金の利用が有利と判断すれば、そこから予約を入れるのです。
15.米国人旅行客の予約を獲得するためには
米国人旅行客をあなたのホテル(旅館)に指名されるポイントは、魅力的なオファーの制度設計によります。米国人と日本人の違いは、本当の価格を計算することに手間を惜しまないことです。オファーを提案すると、それにきちんと反応するのが米国人の特徴です。
実際にどのようなアイデアが展開されているのかは、競争の激しいラスベガスにあるホテルのオフィシャルサイトを開いてみると、その多様さと複雑さに驚かされます。
オファーの事例(マンダレイベイホテル)
そして必ず自社グループ企業の会員制度に誘導してリピート予約を囲い込むことにも余念がありません。
16.自社のアイデアだけで獲得できる米国人旅行客
米国人旅行客の集め方を中心に記述してきましたが、その理由は他の国と違って旅行会社に手数料を支払うことなく、ネット上での自社のアイデア次第で旅行客を獲得できる魅力にあります。
自社のオフィシャルサイトの予約を増やすことができれば、利益率を高められることはもちろん、顧客の囲い込みを強められるので、安定した集客が続くことになります。米国ではどこのホテルでも、自社のRewards(報酬)プログラムに顧客を引き込むことに躍起となっています。
Rewards(報酬)プログラム事例(MGMリゾート)
17.相手国の文化の理解が大切
米国人に指名されるオフィシャルサイトを作るには、相手国の文化の理解は欠かせません。
米国人は計算に手間を惜しまないと書きましたが、安いものを求めているのではありません。過去20年以上にわたり経済成長しなかった日本と異なり、大きな経済成長をしてきた米国は豊かであり、彼らはチープなモノやサービスには見向きもしません。したがって、日本の国内では当たり前の感覚である、安さを訴求しても逆効果となります。近隣のホテル(旅館)より料金が安いことよりも、料金が高くてもサービスが充実している方を選びます。
ただし同じモノやサービスに料金を支払う場合には、少しでも安くなる手段を選択します。その手段を探すプロセスには手間を惜しまないのです。むしろプロセスを楽しむと言ってもいいでしょう。
皆様のホテル(旅館)に米国人旅行客からの指名を得る方法は、彼らの琴線に触れる効果的なオファーを開発することです。そしてこれを、オフィシャルサイトの予約客だけの特典、として情報発信するのです。さらにRewards(報酬)プログラムへの加入を促すことで、リピート客を増やすことができるのです。
18.SNSによる情報拡散のしくみを作る
利用客同士によるSNSからの情報拡散は、米国人旅行客の獲得には最も大切なことです。そのためには、オファーの内容をあまりわかりやすいものにせず、少々複雑な計算が必要なものにすることも一つの工夫です。
「このオファーの利用が最もトクだった」「いやこちらのオファーの利用がもっと有利だった」このような議論でSNSが盛り上がることが大切なのです。このようなたわいのないSNSでのやり取りを楽しむのも、米国人の特徴の一つなのです。
米国人はコミュニケーションが好きな国民性です。読者同士でコミュニケーションが盛り上がるような仕掛けを施すことで、自社の情報を効果的に拡散できます。
19.現代に生きた言葉を使うことで相手に響く
米国人にあなたのホテル(旅館)を紹介するのに、機械翻訳を利用してはいけません。機械翻訳を使った英文ウェブサイトは、魅力を発信するどころか、誤解を招いて逆効果になります。
またどれほど能力が高い人であっても、日本に居住している人に翻訳を依頼することは避けるべきです。たとえそれが米国人であっても、何年も日本に居住している人なら、日本の文化に染まっていて、現在の米国の文化には疎遠になっているからです。
さらにウェブサイトの日本文を単純に英訳するのではなく、先ほどのオファーも含めて相手国の旅行客専用の料金体系を作ることが大切です。これには相手国の旅行文化を良く知る人間に相談して制度設計をすることが効果的です。
「郷に入っては郷に従え」米国人に指名されるホテル(旅館)のウェブサイトを作るなら、米国内の文化に合ったウェブサイトを作ることが大切なことです。そしてこれができたら、あなたのホテルのオフィシャルサイトには米国人から予約が流れ込んでくることでしょう。